映画その男、凶暴につきの感想北野監督の冷酷さが出てる映画

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公開日:1989年

 

繰り返し見過ぎているので、多分正当な評価が下せません。それほど私が溺愛している映画です。サントラ、今もたまに聴いてます。溺愛している割には「この映画の何が好きなのか」と聞かれると具体的には答えにくいのです。

 

可愛がっているペットの猫の長所を飼い主が挙げていくような、変なレビューになりそうですがご勘弁下さい。

 

我妻(ビートたけし)が川上麻衣子扮する妹を精神病院から退院させるシーンが序盤にあります。廊下を歩くカットからパッと海を背にしたカットに切り替わるのですが、ここがどういう訳だか好きでタマラナイのです。

 

私自身も弟が統合失調症で、何度か精神病院に行ったことがあるのも影響していると思います。ここがエリック・サティの音楽と相まって胸に沁みて仕方ありません。

 

退院はするけれど、ここからも家族は大変だよなぁとか、いろいろ考えさせられます。他にも印象深いシーンはたくさんあります。

 

子供が橋の上から空き缶を船に向かって投げ落として「バカヤロー!」と叫ぶ場面。最初のホームレスを○○○してしまう中学生たちといい、理解できない悪意に満ち満ちていて、映画全体に漂う「死臭」をより一層強めています。

 

そうなんです。私がこの映画に一番感じるのは「死臭」です。白竜の生気の無い視線。署長に呼び出されても行こうとしない我妻の、組織の中にいながら属していない感じ。岸部一徳の死んだような目。

 

そして、登場人物は呆気なく深い眠りにつきます。最初に見た時は、コメディ映画を期待していたのでびっくりしました。

 

私が好きだったのは「オールナイトニッポン」のビートたけしであり、漫才をするツービートのたけしだったからです。

 

なので初見の後、しばらくは見向きもしませんでした。恐らく若過ぎて、理解が出来なかったのでしょう。

 

それが今や、何度も繰り返し見るほどに好きな映画になるとは、自分でも意外です。映画としての完成度は、確かに低いのかもしれません。



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素人目にも首を傾げてしまうおかしなカットが結構あります。でも、それすらも独特の「旨み」に感じられるのです。序盤、逃走犯を追い詰める我妻と新米刑事の菊地が、一方通行に入る入らないで揉めるところとか。

 

この時、裸足で逃げる犯人と揉み合いになり、スローモーションで頭に攻撃される刑事さんが松岡修造に似ていることとか。

 

妹が部屋に連れ込んだ男にあたりながらバス停まで送る我妻とか。ディスコの便所で物凄い数ビンタする我妻とか。

 

若き日の遠藤憲一の腹に○○して「アンちゃん、あんまり夢見るんじゃないよ」みたいなことを言う白竜とか。

 

警察をクビになり、なぜか絵画を見に行く我妻とか。その時着ているセーターとか。映画館から出てきた我妻を襲う清弘。

 

この映画が嫌いだという人は、どうやらこのシーンで無意味ながあるのを否定していると思います。

 

最後の戦闘シーンが、意外過ぎること。ある意味肩透かしなんですが、それもまた良しです。清弘の手下の一人が「さかなクン」に似ていること。寺島進がまだ若いこと。「どいつもこいつもキチガイだ」という新開のセリフ。

 

倉庫の光と影のコントラスト。どれもこれも、何度見ても不思議と飽きないのです。ストーリーはヒネリも何もないです。我妻という暴力刑事と清弘という冷酷なハンター。

 

この2人の強烈なキャラを堪能すれば良いのです。難しく考えて見るから訳分からなくなるのであって、シンプルにこれを楽しめばいいのですね。そのことに気付くまで、随分かかってしまいました。

 

エリック・サティの音楽に酔いしれながら、ある意味シュールな映像に身を任せる。この映画を究極に楽しむなら、その境地がベストかもしれません。生きる意欲が希薄な男の、ヤケッパチな生き様。

 

その後の北野武映画でも繰り返し描かれる訳ですが、それが最も荒っぽく、最もストレートに表現されているから、面白くないわけないのです。映画の文法だとかセオリーだとか、本当にどうでもいいことなのですね。

 

それに縛られること無く、やりたいように映画を撮ったからこそ今の「世界の北野」が存在するわけで、当時の現場の人たちの理解に感謝したいです。もちろん、相当に衝突もあったようですけど。

 

作家は処女作が一番面白いという言葉もありますが、それは北野武にも当てはまります。もし毛嫌いしている人がいるなら、まずはこの作品から見ることをお勧めします。

 

この作品が合わなかったら、それは北野武の描く「冷たい暴力」が肌に合わないと思われるので、今後も無理に見ることはないと思います。そういう意味では試金石であり、ファースト北野映画として選ぶ作品だと思います。まずは心して、暴力の冷たい風を感じて下さい。



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